いつも絵巻本舗をご利用頂きありがとうございます。
絵巻本舗店主の高倉です。
他のコラム記事で何度か紹介が出ていると思うのですが僕は元々古美術品や古書などの古物を生業としておりまして、その後にとあるきっかけでアニメグッズ買取店もやらせて頂く事となりました。
本日はスタッフさんに「お客様から版画について多く寄せられている質問があるのでお答え願えますでしょうか?」との要望を頂きましたので、回答したいと思います。
版画ってどうしてあんなに高いんですか?
そうですよね、アニメ作品やイラストレーターさんから版画の世界に入った方はその値段の高さに驚かれるかもしれません。
版画の世界では数万円~数十万円といった価格で取引される事は珍しくなく、有名なイラストレーターさんや人気ブランドの版画ですと百万円を超える事もありますから、文字通り桁が違う世界だと思います。
ただそれほどの価値が付くのにはやはり理由があって、版画というのは機械によって大量生産されるグッズとは異なり、作家さんの技術や経験がはっきりと作品に映し出される極めて美術的な側面が高いグッズとなっています。
版画は基本的に絵師様が描かれた元絵から、版画家(彫師)と呼ばれる方々により版が作られ、摺師により1枚1枚丁寧に色が重ねられて行きます。そのため製作期間は単純な作業時間だけでも数週間~数か月、色味や表現などのやり直しや構想の期間まで含めると数年~数十年にも及ぶ事もある、非常に繊細な工程が幾重にも連ねられていく作品です。
さらに手作業や人の目によるチェックが重要となる版画では完成時に同じものは2枚となく、シリアルナンバーが入った完成品は世界に1枚だけの作品と言っても過言ではありません。
版画は版の性質上、同一の版で無限に生産出来るという訳ではありませんので、一度の製作で作られる枚数が決まっているのも希少性を高めているポイントです。
そんな訳で通常店頭などに並ぶ量販グッズよりも遥かに個人の技術と膨大な手間と時間が掛かっているのが版画の値段が高い理由となっております。
ちなみに、そこからさらに希少性と市場需要によるプレミア価格が上乗せされて値段が跳ね上がるケースも珍しくありません。
リトグラフ・シルクスクリーンって何?
「リトグラフ」に「シルクスクリーン」…とっても分かりにくいですよね。
これらは版画の描画技法に当たりますが、このお話を始めるにはもっと大枠の話からしなければいけません。
皆さんは版画と聞いた時に真っ先に思い浮かべるのが、小学校の図工の時間に彫刻刀で彫ってインクを乗せる「木版画」や、江戸時代に流行した歌川広重や葛飾北斎などの「浮世絵」といった物だと思うのですが、これらは版画の描画方法で分類すると「凸版」に当たり(というか浮世絵がそもそも木版画ですね)、版画の世界にはこれ以外にも「凹版」「平板」「孔版」といった手法の版画が存在します。
まず「凸版」についてもう少し詳しくお話しますと、凸版は彫刻刀などで版木の絵や文字以外の余計な部分を削り取り、残った部分にインクを乗せて紙などに印刷を行います。原理的には芋版や印章をはじめとする判子類と一緒ですね。
これに対して「凹版」は逆に削った部分にインクを流し込み、プレス機によって印刷媒体にインクを定着させる方法です。凸版の版材に木版やリノカット(合成材)が使われるのに対して、凹版には金属全般が使用され主に使用されるのは銅板です。
ここから少し難しくなってきます。次に「平板」ですが、これはアラビアゴム液・解墨・リトクレヨン・リン酸といった化学薬品を用いて、版材に親油部分(インクを引きつける部分)と親水部分(インクを弾く部分)を描画します。
すると凸版や凹版のように版材を直接削ったりしていない平面なのにも関わらず、版にインクを乗せる事が出来るという手法です。水と油が反発する性質を利用して決めた場所にだけインクを置くといったイメージでしょうか。
版材にはアルミ板や石灰版(石板)が使われ、「リトグラフ(=石板の意)」はこれに当たります。
そして最後が「孔版」ですが、「孔版」の「孔」は「上から下に突き抜ける」という意味を持っており、木枠・アルミ枠にピンと張った布(=スクリーン)に「インクを透過する部分」と「インクが透過しない部分」を作ることにより、インクを押し出した際に印刷媒体に色が乗る部分と乗らない部分を作り上げる技法となっております。
最もポピュラーなのはスクリーンプリントと呼ばれるもので、元々は布ではなくシルク(=絹)が使用されていたため、「シルクスクリーン」の名前でも呼ばれています。
版画技法の種類と様々な味わい
【どうしてそんな沢山版画の種類があるの?】
「どれも紙に印刷するならどれか一種類でいいじゃないか!」
…そう思われるのも無理ないかもしれません。ただ、各技法はそれぞれ面白い特性を持っており、それらを突き詰める事で工業製品には出すことの出来ない「深み」を作品に与えてくれるのも版画の面白い部分でもあるんです。
まず「木版画」と「銅版画」は刷り上がってみないと、どういった作品の仕上がりになるか分からない「不確実性」が難しくもあり面白いポイントだと言われています。
「木版画」は版を彫るのはもちろんのこと、インクの調合や刷る部分などについても他の版画手法と比較して最も人間の手による作業が多く、本刷りまでに何度も何度も試し刷りを重ねる必要があります。
彫り方についても彫刻に使用する道具や彫る力加減、刷る工程に使用する「ばれん」の種類や圧の掛け方によって作品が見せる表情が変わるので、仕組みとしては最も単純ながらも奥が深いと言われます。
現代に至るまでに継承されている古くからの職人の知恵や技術も木版画の面白い部分のひとつです。
「銅版画」は金属という媒体を使った「削り」と「腐食」を主とする特性上、刷り上がりの不確実性が最も高く、その「意外性」が作品に大きな影響を与える技法と言われています。
木版画よりも細い線を描くことの出来る銅版画はわずかな傷でもしっかりと作品に刻印されるので、極めて繊細で写実的な作品から抽象的な作品まで表現の幅が広い事も大きな特徴です。
「エングレーヴィング」「ドライポイント」「メゾチント」と呼ばれる直刻法、「エッチング」「ソフトグランドエッチング」「アクアチント」「リフトグランドエッチング」「ディープ・エッチ」と呼ばれる腐食法をはじめとする、15世紀から18世紀にかけてヨーロッパを中心に発展した幅広い表現技法も目を見張るものがあります。
次に「リトグラフ」ですが、化学処理を主とするこの技法は版画の中でも最も難しく、最も気まぐれな側面を持っています。
しかしその分クレヨンや鉛筆タッチ・水彩画風・滲みのような細かい筆圧を含めた表現を行うことができ、木版画や銅版画とは異なり描画した部分や科学的プロセスを実直に反映させるため、技術や経験が作品の出来に大きく結びつきます。
最も自由度が高い反面、クールで最も難しいのがリトグラフの特性となっています。
最後に「シルクスクリーン」についてですが、元絵(原画)を忠実に再現するという点については「木版画」「銅版画」より優れており、それでいて版画ならではの色の重なり方や仕上がった際の美しさも兼ね備えているので、良いとこどりの技法とも言えます。
さらにシルクスクリーンならではの特性として「水以外のあらゆる媒体に刷る事が出来る」と言われており、紙だけでなくガラス・金属・樹脂・布などのあらゆる媒体に刷ることが出来るという特性も持っています。
また技術がものを言う版画の世界の中では比較的初心者の方でも始めやすく、比較的新しく出来た技法のためこれからの発展にも期待が寄せられています。
ミクストメディアって版画の表現技法?
イラストレーターさんの版画などでも「ミクストメディア版画」と書かれているものをたまに目にしますよね。
「ミクストメディア」とは版画において「2つ以上の技法を組み合わせて描かれた作品」の事を指すので、正確には版画の技法の事ではありません。
1900年初頭にピカソが製作したコラージュ作品がミクストメディアが初めて使われた作品とされており、元々はキュビズム絵画やファウンド・オブジェ、レディ・メイドなどの作品に使用されていましたが、段々と定義自体も曖昧になり絵画・油絵・版画などで「2つ以上の技法を組み合わせたもの」という意味になりました。
そのため「ミクストメディア」という言葉が使用される媒体によって意味合いは微妙に差異があり、「版画のミクストメディア」においては「リトグラフとシルクスクリーン」「ジーグレー(版画技法の中でも版を用いない特殊なものですね)とシルクスクリーン」などの技法同士を組み合わせた制作方法を指すことが多いです。
ただ非常に紛らわしいのですが「ミクストメディア」という言葉の他に「メディアミックス(マルチメディア)」という言葉もありまして…。
こちらは1つの作品を2つ以上のメディア(版画・絵画・小説・漫画・映像・アニメなど)で展開するという意味になりますので、意味が全然変わってしまいます。
どちらかというとメディアミックスはマーケティング戦略として使用される事が多いイメージなので、アーティストサイドで使われる事はあまりないかもしれません。
アニメグッズ系で言いますと、とあるライトノベル原作の作品が漫画化・アニメ化となり、版画の展示会が行われることもメディアミックスとなりますね。
(さらにその版画はミクストメディアで描かれているなんてこともあるかもしれません)
今回のまとめ
版画による印刷技法はレーザープリントやインクジェットプリントなどのオンデマンド印刷の平坦な印象とは異なり、力強さや奥深さといった部分で唯一無二とも言える美しさを誇ります。
実際、版画グッズにおいて人気の高いアールジュネスさんは版画の印刷としてシルクスクリーンやミクストメディアを採用している作品がいくつもあり、さらにインクの重なりにより浮かび上がるキャラクターや情景、光の加減によって変わる表情や版画ならではの立体感は、これまでに多くのファンを生み出してきました。
果てしない技術と時間によって紡がれる版画は、初めてご覧になった方にとっては値段が高く感じてしまうかもしれません。
しかし1つの版で制作出来る枚数が限定されており、そこからさらに厳選された作品のみが市場に上がる版画は、希少性も含めて単なるグッズではなく美術的・絵画的な価値も内包していると言えるでしょう。
ゴッホやダリの絵画を普通の買取店に依頼しても相応の価値が判断できないように、版画などの付加価値が高いグッズはアニメグッズ買取専門店でないと正しい価値が判断出来ない事があります。
そのため、お客様の中でアニメ・イラストレーター版画の買取を検討している方がいらっしゃいましたら、必ず専門店にご依頼する事をおすすめします。
絵巻本舗ではアニメ・イラストレーターの知識に精通したスタッフがしっかりと市場需要を踏まえて査定をさせて頂くほか、古美術・古書に精通した店主高倉が版画の持つ美術的な価値もしっかりと判断させて頂きます。
版画をはじめとするアニメグッズの買取は絵巻本舗にぜひお任せ下さい!
アールビバン・アールジュネス・イラスト版画の高価買取情報はこちらもご覧ください!
…という訳で、店主高倉による版画への質問・疑問の回答でした。
他にもグッズに関する分からない事や質問・疑問があればぜひ絵巻本舗にどんどん聞いて下さい。私やスタッフがこういったコラムでお答え致します。
絵巻本舗では他にも沢山のコラムを掲載していますので、よろしければそちらもご覧ください
それではこれからも絵巻本舗をどうぞよろしくお願い致します。